症例&コラム
外科矯正でいびき改善?骨格といびきの関係性について
外科矯正でいびき改善?骨格といびきの関係性

ご自身ではなかなか気づきにくい「いびき」ですが、いびきに悩んでいらっしゃる方は多くいらっしゃいます。
「いびきくらい・・・」と思っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、いびきは単なる騒音ではなく、「睡眠時無呼吸症候群」など、命に関わる深刻な病気に発展するリスクもあります。
中にはレーザー治療などで対処できる「いびき」もありますが、根本的な原因が「骨格の異常」にある場合、そうした治療では十分な効果が得られないことがあります。
そこで注目されているのが、「外科矯正」によるアプローチです。
今回は、外科矯正といびき改善のメカニズムについてわかりやすく解説していきます。
外科矯正といびきの関係性
「いびき」が起こるメカニズムとは?
いびきの正体は、空気の通り道=「気道」で発生する振動音です。眠っているとき、特に仰向けの姿勢では、舌や軟口蓋(いわゆる「のどちんこ」)、咽頭周囲の筋肉が緩むことで、気道が狭くなります。この狭くなった気道を空気が通過する際、周囲の組織が振動して音が発生するのです。
とくに注目すべきは、「構造的に気道が狭い人」です。太っている方やお酒を飲んだ後の筋肉の緩みも原因になりますが、顎の骨格の形が根本的な原因となっているケースも少なくありません。
なかでも、下顎が後方に下がっている「下顎後退症(後退咬合)」の方は、舌が自然と喉の奥に落ち込みやすく、結果として気道をふさぎやすくなるのです。
骨格が関係する「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」とは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に何度も呼吸が止まる疾患です。特に「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」では、気道そのものが物理的に閉塞することで、呼吸の停止が起こります。
このような閉塞は、顎の骨のサイズや位置に大きく関係しています。
例えば、顎が小さすぎたり、後ろに下がっていたりする場合、喉の空間が狭くなり、呼吸がしにくくなるのです。
こういった骨格的な問題には、骨の位置を手術で調整する「外科矯正」が有効です。
顎の位置を調整することで気道を広げ、呼吸をしやすくするという、根本的な治療が可能となります。
外科矯正が有効となる「いびき」の症例とは?
下顎後退症(後退咬合)といびきの深い関係
下顎後退症とは、下顎が後方に下がっている状態のことです。横顔から見ると、顎があまり目立たず、首と一体化して見えることがあります。
このような顎の形だと、仰向けで寝たときに重力の影響で舌がさらに奥へ沈み込み、気道が塞がれてしまうことがあります。
結果として、いびきや無呼吸が起きやすくなるのです。
この問題に対処するのが、「下顎枝矢状分割術(SSRO)」や「下顎前方移動術」といった外科手術です。
これらの手術では、下顎を前に移動させることで舌の位置も前方に変わり、気道が広がります。
その結果、呼吸がしやすくなり、いびきが改善されるケースが多く見られます。
骨格性の上顎前突がもたらす鼻・気道の問題
「出っ歯」と聞くと、歯並びだけの問題と考えがちですが、実は「骨格性上顎前突」という、上顎そのものが前に出てしまっているケースがあります。このような場合、上顎の突出によって鼻腔が狭くなり、自然と口呼吸が中心になってしまう傾向が強まります。
さらに、上顎が前方に出ていると、下顎が相対的に後ろに押され、舌の位置が後方へと下がります。これにより、喉の気道が狭まり、いびきの原因になるのです。 こうした場合には、「Le Fort I型上顎骨切り術」や「上下顎同時移動術」などの手術が用いられます。
骨格の位置関係を整えることで、鼻から喉にかけての通気性が改善され、結果としていびきの大幅な軽減が期待できます。
外科矯正で気道が広がるメカニズム
骨切り術による顎の移動と気道拡張
外科矯正手術の一環である「骨切り術」は、美容や噛み合わせの矯正だけでなく、気道の広がりという医療的にも重要な効果があります。特に、下顎後退症に対して顎を前に移動させる手術を行うと、舌の根元周辺のスペースが広がり、舌が気道を塞ぐリスクが軽減されます。
その結果、軟口蓋や舌根が気道に落ち込むことが減り、呼吸がスムーズになります。
実際に術後のCT検査では、気道の容積が明らかに増加していることが多く確認されます。
つまり、「音を抑える」のではなく、「通り道そのものを整える」ことで、いびきの根本的な改善が期待できるのです。
上下顎同時移動術(MMA)の高い注目度
最近では「上下顎同時移動術(MMA)」という手術が特に注目されています。この手術では、上顎と下顎の両方を前方へ移動させ、気道の最大限の拡張を図ります。 なぜこれが注目されているかというと、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の治療において非常に高い効果があるとされているからです。欧米では、MMA手術を受けた患者の中には、CPAPが不要になるほど改善された例もあります。日本でも、専門医のもとでMMAが徐々に導入されつつあります。
この手術では、上咽頭から下咽頭にかけて広範囲に気道が拡張されるため、他の対症療法とは違い、構造そのものを改善する“根本治療”といえるのです。
外科矯正でいびきが改善する仕組み
呼吸時の気流抵抗と軟組織の振動が減少する理由
いびきは、狭くなった気道を空気が無理に通ろうとする際に発生する「乱流」と、それに伴う「軟組織の振動」が原因です。つまり、空気の通り道が細いことで勢いよく空気が流れ、それによって喉の柔らかい部分(軟口蓋や舌根など)が震えて音が鳴るという仕組みです。
外科矯正で顎の骨の位置を正しく調整することで、こうした狭くなった部分、いわば「ボトルネック」を解消することができます。
特に、下顎を前方に移動させることで舌の位置も前に出るため、気道の断面積が広がり、空気がスムーズに流れるようになります。
結果として、喉の組織が振動する頻度が減り、いびきの音が軽減、または完全に消失するという効果が期待できます。
これは一時的な対策ではなく、構造そのものに働きかけるため、長期的な改善が見込まれる点でも非常にメリットが大きいと言えます。
舌根沈下を防ぐ顎位置の再設計
「舌根沈下(ぜっこんちんか)」も、いびきを引き起こす大きな原因の一つです。これは、舌の根元部分が寝ている間に喉の奥へ沈み込んでしまい、気道をふさいでしまう現象です。
特に仰向けで寝る習慣がある方、筋力の低下や骨格的に下顎が後退している方に多く見られます。
外科矯正では、このような舌根沈下を防ぐために、下顎そのものを前方に移動させる手術が行われます。
これにより、舌も自然と前へ移動するため、寝ている間でも喉の奥へ沈み込むリスクが大幅に減少します。
実際、多くの患者がこの手術によって、寝ている間の呼吸がラクになった、朝の目覚めがすっきりした、日中の眠気が改善されたという変化を実感しています。
これは、舌根の位置が物理的に変わることで、空気の流れが妨げられにくくなるからなのです。
いびきに悩むなら、骨格からのアプローチも選択肢に
いびきに悩む方の多くが、「自分のいびきは体質だから仕方ない」「ちょっと疲れてるから寝付きが悪いだけ」と軽く考えてしまいがちです。しかし、そのいびきが、実は「顎の骨格構造」によって引き起こされているとしたら、話は大きく変わってきます。
これまで見てきたように、外科矯正はただの美容整形ではありません。
歯並びや見た目を整えることももちろん重要ですが、それ以上に、「呼吸の通り道=気道」をしっかり確保するという医療的な側面が非常に大きいのです。
特に、下顎後退症や骨格性の上顎前突、反対咬合といった明らかな骨格の問題がある場合、マウスピースやCPAPといった対症療法では限界があります。
こうしたケースでは、骨格の位置を根本から見直す「外科矯正」が必要になることも少なくありません。
いびきを単なる「音の問題」ととらえず、あなた自身の「骨格の問題」として見直してみること。それが、質の高い睡眠と健康な毎日を手に入れるための第一歩になるかもしれません。
専門医による丁寧な診断とカウンセリングを受け、あなたに合った最適な治療法を見つけてください。

【監修】歯科医師 北野ホセ
Sanmartin University (Peru) 卒業
多くの外科矯正の症例を担当しています。