症例&コラム
感染根管再治療と歯周再生療法を併用した、奇跡的保存症例について
感染根管再治療と歯周再生療法を併用した、奇跡的保存症例
- 主訴
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- 右下の歯が揺れてきた。20ぐらい歯科医院に行ったがどこも歯を抜くしかないと言われたがどうしても諦められないから抜かないで治療をしてほしい。
- 同部位は動揺も強く排膿も認めた。違和感が強く噛めないほどであった。
- 通院期間・回数
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- 通院期間半年、回数は4回
- 治療内容
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- 再根管治療、歯周再生療法
- 治療のメリット・デメリット
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- メリット:歯をすぐには抜かないで延命できる。
- デメリット:成功率が低く難易度が高い。喪失リスクが高い
歯を抜かずに治療をおこない患者の満足度は高かった。今後の寿命は読めず説明したが今回の結果には満足していた。
「どこの歯医者に行っても“抜くしかない”と言われました。けれど、どうしても諦められないんです。」
そう語った患者さんの言葉が、この治療の始まりでした。右下の奥歯がグラグラして噛めない。
5軒以上の歯科医院で抜歯宣告を受けても、なお“自分の歯を残したい”という強い希望を持って来院された症例です。
当院では、詳細な画像診断のうえ、感染根管治療の再実施と歯周再生療法(骨の再生を促す手術)を併用する「保存的挑戦」を提案しました。
結果、感染の沈静化とともに骨再生が確認され、動揺が軽減。抜歯を回避することができました。
「奇跡のようです。でも先生にお願いして本当によかった」と語る患者さんの笑顔は、歯科医としての原点を改めて思い出させてくれました。
「右下の歯がグラグラして、噛むと痛いんです。
もう5軒以上行きました。でも、どこも“抜くしかない”って言われました。
どうしても自分の歯を残したいんです。」
患者さんの声には、不安・絶望・そしてわずかな希望が入り混じっていました。
他院では「骨が溶けている」「もう持たない」と説明され、インプラントや入れ歯の選択肢を提示されていたとのこと。
しかし、「本当に他に方法はないのか?」という気持ちを捨てきれず、インターネットで“歯を残す治療”を探し、当院に辿り着かれました。
現病歴
数年前に根管治療(神経の治療)を受けた右下奥歯(第一大臼歯)が、半年前から違和感を覚えるようになり、徐々に噛むと痛みを感じるようになったそうです。当初は「軽い歯周病」と言われ経過観察していましたが、次第に歯の揺れが強くなり、排膿(膿が出る)が始まったことで急速に悪化しました。
どの医院でも「根の感染が深く、歯の周りの骨も溶けている」と説明され、最終的には「抜歯以外に方法はない」との診断。
そのたびに「他に方法はないですか?」と尋ねたものの、首を横に振られ続けてきたそうです。
来院時には、心身ともに疲弊しながらも、「もし最後の望みがあるなら、それに賭けたい」と強い決意をお持ちでした。
既往歴・服薬・アレルギー
全身的な健康状態は良好で、持病・服薬・アレルギーなし。喫煙習慣もなく、治癒予後を妨げる要因は特に見られませんでした。
ただし、これまでの治療経験から「歯科への不信感」が強く、初診時の問診では「また抜くって言われたらどうしよう」と涙ぐまれる場面もありました。
治療を成功させるためには、技術だけでなく、患者の信頼を再構築することが不可欠なケースでした。
歯科既往・メインテナンス履歴・歯科恐怖の有無
30代から虫歯治療を繰り返しており、右下6番は10年以上前に神経を除去。再治療を経て金属冠が装着されていましたが、その後の定期メインテナンスは途絶えていました。
根管治療の封鎖不良や歯周感染の放置により、根尖(歯の根の先)と周囲骨の感染が進行していたと考えられます。
社会歴
50代男性。接客業を営み、食事と会話が生活の中心。「噛めないと食事が楽しくない」「仕事中も顎の違和感が気になる」と訴えられていました。
また、家族にも「口の中の匂いが気になる」と言われ、人前で笑うことも減っていたそうです。
“食べる・話す・笑う”という日常機能の回復が、本人の最大の希望でした。
口腔内所見(視診)
右下第一大臼歯(46)は動揺Ⅲ度(強く揺れる状態)で、触診により歯肉からの排膿(膿の滲出)が確認されました。歯ぐきは暗赤色に腫れ、歯周ポケットは8〜9mmと深く、根分岐部(歯の根の分かれ目)にも炎症性骨欠損を認めました。
周囲の歯は軽度の炎症のみで、問題の歯だけが局所的に悪化していました。
つまり「全体的な歯周病」ではなく、感染根管由来の局所性複合感染(エンド・ペリオ病変)が主因と考えられました。
画像所見
デンタルX線およびCTで、根尖部に透過像(黒い影)を認め、根尖周囲骨が大きく吸収されていることが確認されました。根の破折はなく、根管形態は保存可能。
また、歯周骨の垂直性吸収(根の側面に沿った骨の欠損)もあり、根尖部から歯周ポケットへの感染経路が形成されていました。
このような“エンド・ペリオ連続病変”は、抜歯適応の最終段階とされる重症状態です。
初期評価
診断名:感染根管治療後の再発性根尖性歯周炎を伴う重度歯周炎(エンド・ペリオ病変)保存の可能性は低いが、
・歯根破折なし
・全身状態良好
・患者の強い希望
という条件から、保存的治療に挑戦する価値があると判断しました。
説明と同意のプロセス
初診カウンセリングでは、「抜歯回避に挑戦するが、成功率は決して高くない」ことを明確に伝えました。リスクを隠さず、成功例と失敗例の両方を写真で説明。
「最悪の場合は抜歯に戻る」という現実を理解してもらった上で、「それでも挑戦したい」との意思を再確認しました。
「どの先生も“無理”と言っていたのに、“やってみよう”と言ってくれる先生は初めてです。」
この言葉が、治療を進めるうえでの信頼の起点となりました。
治療方針の概要
| 治療名 | 感染根管再治療+歯周再生療法(エムドゲイン法) |
|---|---|
| 通院期間 | 約6ヶ月(全4回) |
| 費用 | 自由診療(院内規定に準ずる) |
| 目的 | 1️⃣ 根管内の感染を徹底的に除去 2️⃣ 抗菌性材料で根尖部を封鎖 3️⃣ 骨吸収部に再生因子を用いた骨再建 4️⃣ 歯の動揺を抑制し、咬合を安定化 |
メリット:歯を抜かずに延命できる・自然歯で咬合を維持できる・審美的にも自然な仕上がり
デメリット:成功率が低く、再感染リスクあり・治療期間が長い・再評価の結果、抜歯になる可能性もある
経過(タイムライン形式推奨)
初回
マイクロスコープ下での根管再治療。古い充填材と感染歯質を除去し、抗菌薬入り薬剤をいれ仮封。排膿が止まり、痛みが軽減。
2回目(1ヶ月後)
バイオセラミックシーラーで根管充填。
3回目(3ヶ月後)
根尖部透過像の再評価をおこない歯周再生療法(エムドゲイン®+骨補填材)施行。2W後に抜糸。
4回目(6ヶ月後)
再評価。動揺はⅢ度→Ⅰ度へ改善。骨の不透過像を確認。仮歯を仮着して咬合調整。 機能回復・審美安定を確認。
治療終了時には、レントゲン上で骨の再生が明瞭に確認されました。患者さん自身も「噛めるようになった」「違和感がない」と実感され、何より“抜かずに済んだ”ことへの喜びが大きかったそうです。
治療予後
治療後、患者さんは笑顔でこう話されました。「ダメと言われた歯が、今こうして残っている。信じられません。」
現在は咬合も安定し、発音や咀嚼も問題ないためセラミックで補綴して日常生活をおくっています。
治療寿命は確かに読めません。しかし、歯を残せたことが、患者さんの大きな財産になっています。
まとめ
本症例は、抜歯適応レベルの重度エンド・ペリオ病変に対して、感染源の徹底除去と再生療法の併用で機能回復を得た貴重なケースです。根管治療単独では治癒が困難な場合でも、歯周再生療法を組み合わせることで骨の再生を促し、残存歯の保存をおこなえる可能性があります。
歯を救うことは大切ですが、それは簡単なことではありません。誰もが失いたくないと思う瞬間は失いそうになって初めて気づかされるものです。
リスクを理解してもらったうえで、最善を尽くすことが私たちの仕事で重要な要件の一つです。
“抜くしかない”と言われても、それが“本当に最後”とは限りません。歯を残す努力に限界はありますが、“可能性”は必ずあります。
倫理・個人情報への配慮
症例掲載に際しては、患者様の明確な同意を得ており、個人を特定できる情報(氏名・顔貌など)は一切含まれていません。
参考
日本歯内療法学会:難治性根尖性歯周炎に対する再治療ガイドライン(2023)Tonetti MS, et al. Periodontal Regeneration — Current Status and Future Perspectives. J Clin Periodontol, 2022.
Lang NP, Karring T. Clinical Periodontology and Implant Dentistry. Wiley-Blackwell, 2021.
【監修】歯科医師 渥美憲人
補綴認定医
患者様の口腔内全体を考えた全顎的な治療をご提供しています。